コラム

大企業の人材を「副業で使う」時代がくる!

気に入ったら、社員にしてしまおう

掲載URL:https://president.jp/articles/-/25927

コラム プレジデントオンライン

副業に慎重だった大企業が、「申請をすればOK」という会社が出現してきた。今後、副業OKの大企業が続出すれば、「副業マーケット」ができあがる。当の大企業の社員たちは、何をすればいいのかわからないし、やりたいこともない、仕事をくれそうな相手もいない、というケースが多い。こういった状況は、大企業の社員が持っているスキルを利用したい中堅中小企業にとっては、チャンスかもしれない――。

「待遇のいい中小企業」なら、人が獲れる

競争が激しく、終身雇用制度を維持できなくなった大企業は、高度成長期のように給与が右肩上がりではなくなった。一部では、コストのかかる中高年社員に、早期退職が促されている。人生を100年生きる時代が迫るなか、定年退職後に年金だけで暮らせるわけもなく、人生の後半戦にどう備えていくかが、これからのビジネスパーソンには大きな課題だ。こうした状況のもと、副業を認める法人が増えてきた。

その一方、企業の人手不足が深刻な中堅中小企業にとって優秀な人材を獲得することは、昔から容易でなかった。待遇面で大企業と遜色がなく、自由闊達な中堅中小企業は存在するが、いかんせんその存在が知られておらず、応募する人材は少ない。

大企業ビジネスパーソンは「つて」がない

大企業には多彩な仕事や専門部門が存在し、そこで働く社員の中には優秀な人材がいる。だが彼らの人間関係は非常に狭く、社内と限られた取引先くらいしかつながりがない。副業を認める大企業が増えても、そこに働く社員たちは中堅中小企業の経営者や人事担当者とのパイプがなく、副業が探せないのが実情だ。

また中堅中小企業も、取引がある大企業の担当部署とは接点があっても、他部門の人材との交流は限られる。有能な大企業の人材に、業務を副業として依頼するという発想がそもそもない。

大企業のビジネスパーソンは副業という手段を用いて、自分の専門性を生かせる仕事ができれば、自信が持てる上にセカンドキャリアとしての布石が打てる。有能な人材を求める中堅中小企業は、中途採用や再雇用先として正社員にする前に、副業を通じて本人の能力と実力が判断できる。両者が納得すれば、その後の仕事の仕方も相談すればいい。

副業で頼みやすい、頼まれやすい職種

大企業には多様な部署が存在するが、中堅中小企業はそうはいかず、他部署の人が兼務したり、外注したりする仕事がある。本業に特化した組織づくりを進めているために、こうしたことが起きる。とくに社歴の浅い企業や、ITなど専門家集団の中堅中小企業では、守りに弱い陣容になっていることが多い。

中堅中小企業に不足しがちな社内部門とその業務内容としては、

・人事(社員の人事評価制度づくり、社内研修制度、人材採用方法、労務手続き)
・総務(服務規程に代表される社内制度づくり、備品管理と受発注システム、電話やメールの応対マニュアル、秘書業務)
・広告、広報(広報紙の作成、広告や広報のコンテンツづくり、企業ツールとしてSNSの活用、ネット広告の利用、就職サイトの立ち上げと運用)
・制作(グラフィックデザイン、コピーライティング、写真撮影、漫画・イラスト)
・システム(ネットを活用した直販システムづくり、顧客データの有効活用、社内情報の共有システム)
・営業(各種マニュアルづくり、顧客開拓とリストづくり、海外での営業活動、海外営業拠点づくり、海外の代理店選定とその仲介)
・企画開発(企画立案、アイデアの捻出、技術者や学識経験者の紹介や仲介)
・チャネル(新規チャネル開拓、店舗開発、店舗運営)
・販売(販売員教育、スタッフの教育マニュアルづくりと研修、海外事業展開、海外企業との提携)
・経営(中期事業計画の策定、新規事業開発)

などがある。

こうした業務に日常携わっている大企業の人材なら、テーマを絞って仕事を依頼すれば、小規模企業では対応できない専門性を発揮してくれるかもしれない。副業で仕事を依頼し、能力が高い人材であることがわかれば、継続的に仕事を依頼していき、将来は社員として迎え入れることも視野に入る。逆に期待したほど専門性を備えていない場合には、副業の依頼を終了すれば済む。

お金をかけずに、「副業人材」を見つける方法

正社員やアルバイトと同様に、人材を斡旋する紹介会社に依頼したり、広告を掲載したりする以外に、工夫すれば独自の方法で人材を集めることができる。たとえば、次のような方法だ。

・大企業と仕事をしている経営コンサルタント、企業向け研修講師、会計士(会計事務所)、弁護士などから、営業、経営、総務、会計、人事などの部門や窓口を紹介してもらう
・ビジネススクールの教授や大学教授から卒業生や関係者の紹介を受ける
・フェイスブックなどSNSに副業人材募集専用のサイトを立上げて募集する
・フェイスブックなどSNSに投稿している大企業の社員と懇意になり、人脈を拡げていく
・ブログなどで副業について執筆している人を見つけて、自社の状況を説明し、自社情報と求める人材の専門分野に関する資料を送り、ブログで紹介してもらう
・副業報酬の明示とともに、副業専用のオフィス空間や週末に利用できるオフィス空間を用意し、メディアで報道されるように広報活動に取り組む

など、他社にない独自の方法で人材を募集したい。

実際に仕事を頼むときの注意点

副業を単なる「労務の提供」と考えていたり、「アルバイト仕事」だと誤解されたりしないように、仕事を発注する側は、次の点に注意すべきだ。

・守秘義務契約
・雇用されている企業からの承認
・求められる具体的な成果物や業務内容の取り交わしや取り決め
・完成と納品の期日
・業務連絡や打ち合わせなどの方法
・報酬金額
・支払い条件(着手金・中間金・残金支払いなどがあれば記載する)と支払期日
・契約違反の場合の対応(損害賠償責任の明示)
・誓約書

などを整備して、両者で合意しておこう。企業風土や企業文化、社内規定が異なる人材と付き合うわけだから、無用なトラブルを避けるようにしたい。

大企業のビジネスパーソンに期待したいこと

専門性が必要な副業を依頼している企業は、「日雇い仕事」や「アルバイト」といった作業員を求めているわけでなく、その分野のプロフェッショナルを求めている。依頼主からの信用を失わないようにするには、次のような心構えを大企業ビジネスパーソンには期待したい。

・自分にできない仕事は、絶対に安請け合いしない
・仕事内容と出力精度を、両者で事前に確認しておく
・直前に仕事をキャンセルするといった信義則に反する行為をしない
・仕事と業務の範囲を互いに遵守し、「言った、言わない」をさけるために、両者のやり取りは文書にして残す

副業が向く人、向かない人がいる

給与所得者には、雇用主から毎月決まった給与が支払われる。自分の仕事の精度は上司にチェックされるが、その仕事がどれだけ金銭的価値があるかを本人は把握できない。

一方、プロフェッショナルやフリーランスで仕事をしている人たちは仕事に対して毎回高い精度を要求され、その対価として報酬を得る。また依頼主から継続して仕事を受けるには、仕事の精度はもとより、期日を守るといった信用や信頼づくり、互いに気持ちよく円滑に仕事を進める対人関係性やコミュニケーション能力が要求される。

いかに優秀で、専門性を発揮できても、「大企業にいるという上から目線での相対し方」や「その場限りの付き合い」では、依頼主から大事にされず、仕事は継続しない。給与でなく、「出力する仕事の精度によって対価を得る大変さと喜び」を実感できない人は、副業には向かない。中堅中小企業の側も、このあたりの向き不向きをしっかりチェックしなければいけないだろう。