マーケティングのジレンマ・・・No.85「インダストリー4.0」に投資してきたドイツが直面している、構造的な経済の高コスト化と失業者が増大している理由

仕事をする上で、家庭や私生活との両立を図りたいと考える人が日本でも増えています。その一方、企業が給与水準を上げ、労働時間を減らそうとするとその先どうなるでしょうか。2023年に名目国内総生産で日本を抜いて世界3位の経済大国になった国が、そこで生じた問題に直面し苦悩しています。
賃金を上げ、労働時間を減らそうとすれば、日本もドイツと同様の問題を抱えることになる
2023年にドイツは名目国内総生産で日本を抜き、世界3位の経済大国になりました。ところがドイツのケルン経済研究所(IW)によると、ドイツの2024年の失業者数は過去10年で最多となり、今後1年で失業者はさらに140万人増えると予想しています。現在のドイツは不景気で失業者が増えている一方、雇用者も増えています。この不思議な状況は、ドイツ人の労働時間の短縮化が原因のようです。
ドイツは2015年に最低賃金制度を導入しましたが、ショルツ連立政権はインフレを上回る比率で最低賃金を引き上げました。その結果、労働者の賃金は企業業績の改善を上回るテンポで増加しました。ショルツ政権の支持母体である金属産業労働組合は、週休3日制の実現を主張しています。そのためドイツ企業は労働者の数を増やさないと、経済活動を維持するための労働量を確保できない状況です。ドイツは現在不景気で失業者が増えているのに、雇用者も増えている背景には、ドイツ人の労働時間が短縮したことが構造的な要因です。しかも賃金の急増で経済の高コスト化が進んでおり、ドイツ経済界はこのふたつの問題に苦悩しています。
こうした状況下にあって、今後ドイツの労働人口は構造的な減少に直面します。ベビーブーム世代の引退です。連邦統計局の推計では、2036年までに現在の労働人口のおよそ3割に相当する1,290万人の労働者が年金受給年齢に達し、労働市場から退出します。
賃上げで労働者の数を増やそうとしても、企業は自社の業績に見合う範囲でしか対応できません。不足する労働力を外国人を雇用しようとしても限界があり、ITを始めとするスキルの高い人材は各国との取り合いになっています。不景気にもかかわらず、人手不足が深刻な現状を見ると、ドイツがこれから景気を拡大できるかどうかは微妙です。
投資を強化して生産性を引き上げようとしても、それには時間が掛かかります。またドイツはエネルギー資源に関して不安定要素があり、国内外の企業はドイツの投資に慎重になっている面もあります。
賃金を上げ、しかも労働時間を減らそうとすれば、日本も同様の問題を抱えることになります。
参考資料:GDPで日本を抜いたドイツで吹き荒れるリストラの嵐、ドイツ経済で何が起きているのか? JBpress 2024/5/9