コラム

「大企業から中小企業へ」転職する新たな道

実力が認められ、社長に抜擢された実例もある

掲載URL:https://president.jp/articles/-/25898

コラム プレジデントオンライン

リーマンショック後に191社まで増えた「希望・早期退職者募集の実施企業数」(*)だが、減少が続き、2016年度には18社にまで減っていた。ところが、2017年度には25社に増加している。一方、中小企業ではPRや販路開拓、新規事業といった分野で専門性を持った幹部社員が不足する問題を抱えている。会社を去る大企業のビジネスパーソンと成長段階にある中小企業が出会えば、良い出会いになる――。

*東京商工リサーチ「2017年度主な上場企業『希望・早期退職者募集状況』調査」(2017年に希望・早期退職者募集の実施を公表した企業数とその募集人数)より

早期退職で、行き場を失う50代

業績が好調なビジネス機器を扱う大手企業で、40歳以上の社員を対象に早期退職者の募集が行われた。50代社員は実質的に選択肢のない早期退職勧告だ。早期退職優遇制度で退職金の上乗せはあるが、早期退職を余儀なくされた50代社員たちの再就職先は決まっていない人が多い。

前述した企業とは別だが、歴史のある会社のオーナーが自社株をファンドに売却し、株を入手した法人は、将来的には他社への事業譲渡や資産売却による清算を視野に入れているという。こうした顛末があり、40代の社員たちは早期退職を受け入れて転職した。

「大企業だから」「経営が安定しているから」「報酬や待遇がよいから」といった理由で就職先を探して仕事に就いた人がいる。結果を出した人であっても、中高年になって人員削減の対象になることはめずらしいことではない。「最もリスキーな職業」は「ベンチャー企業の経営者」や「中小企業の社長」ではなく、「企業に勤めるビジネスパーソン」なのかもしれない。

中小企業勤めは、リスキーなのか

中小企業で働くのはリスキーだと考える人もいるが、規模の小さな企業であっても取引先企業が1社ということはなく、複数の取引先を持っている。たとえ1社からの仕事が途絶えても、他社の仕事がある。
だが企業に勤めている給与所得者の場合、会社が倒産したり、解雇されたりしたら、収入は瞬時に途絶えてしまう。早期退職せずに定年まで働けたとしても、長い老後を何もせず、年金だけでは暮らせない。何かしらの仕事に従事しないと、人生の後半戦はとても厳しいことになる。

一方で、自営業を営む人たちや中小企業の経営者、フリーランス(個人事業主)として仕事に携わってきた人たちに「定年」はなく、「他人から早期退職を迫られること」はない。その代わり自分の能力の限界は、自分で判断し、自分で見切りをつける。

彼らは自らの手で顧客を見つけ、仕事を生み出すことで収入につなげている。また継続的に購入してくれる顧客や、恒常的に仕事を発注してくれる取引先を開拓し、収入が安定するように取り組む。これらの人たちは、「給与はもらうもの」という発想がなく、「仕事は自らの手で生み出すもの」であり「収入は自分で稼ぎ出すもの」という考え方で生きている。

売り上げが減れば、仕事を増やすために顧客や取引先を増やす方法を考えるし、売り上げの変動が激しければ、安定した売り上げを上げる方法を見つけるために知恵を使う。社員を雇用していて業績が悪くなれば、経営者として自身の給与を減らすのは当然だと考えて実行する。

自力で生き抜いてきた人たちは、会社の看板に依存することなく「仕事をつくり」、実績を上げている。業績の浮沈は身を持って経験しているので、対処法も自力で考え出し、逆境にあっても強い。フリーランスの場合、若くても仕事がなくなる恐怖を知っているから、傍観せず、自力で何とか難局を乗り越えようと取り組む。

大企業サラリーマンの働き方が変わる

給与所得者を選んだビジネスパーソンが、今後どんなことに遭遇しても生きていける人材になるには、まず「明日会社がなくなっても困らないように、自分の仕事を高度化する」ことだ。そのためには、

・どの企業からも求められる能力や専門性を備える
・指示された仕事、やらなくてはいけない仕事だけでなく、自分の能力や専門性を高度化できるように今の仕事に取り組む
・現在従事している業務を通じて、自分の能力や専門性を高め、プロと呼ばれるように仕事に取り組む
・取引先との交渉力や営業力を磨く
・多くの人たちや部下を動かすリーダーシップ能力(職位ではない)を身につける

といった取り組みで、自身のスキルを高めておきたい。

さらに企業の看板でなく、自分の力で顧客や取引先を見つける営業力を磨き、人的ネットワークを強固にできたら、何よりも強い味方になる。

大企業で働くビジネスパーソンほど、仕事は仕事と割り切って、仕事で知り合った人との縁を重視しない人が多い。とくに仕事の発注先である中小企業に対しては顕著だ。大企業の社員は会社を去ればただの人だが、中小企業の幹部や役員は、多くの人たちに助けられ、支えられてきただけに、人的なつながりが強く、人との縁を大事にしている点は正反対だ。

いい仕事をしていれば、声がかかる

大手商社で中小企業に資材を供給する業務を担っていた人が定年を迎え、取引先だった企業の経営者から請われて営業幹部として再就職し、その後グループ企業の社長に抜擢された実例がある。この事例が示すのは、いい仕事をしていれば、必ず誰かが見ており、他社から請われる人になれるということだ。

「定年を迎えたら、新たな就職先を探そう」「企業が早期退職を勧告したので、受け入れてから、転職先を見つけよう」。もしこのように考えていたら、人生の後半戦は極めて不本意に終わる可能性が高い。在職中に自身の能力を高め、人との縁を大事にして来なかった人も同様だ。

・他社から、ぜひ欲しいといわれる人
・仕事で知り合った人と、仕事を離れても親しくしている人
・取引先の幹部や経営者から評価され、信頼される人
・専門性と顧客開拓などの営業力を発揮している人

こうした要素を備えた人には、社外からチャンスが来る。彼らの転職は、転職情報メディアや紹介会社から見つけるのではなく、他社から請われてのものだ。

実力者なら、企業規模に関係なく活躍できる

いい大学に入り、名の知れた大企業に就職し、人生の前半戦で勝者と呼ばれる人たちがいる。彼らはエリート意識が高く、名もない中小企業に再就職することなどプライドが許せないという人もいる。こうした人ほど他社から請われることはなく、人生の後半戦で寂しい時間をすごすことになる。過去に生きる人間に、社会から声が掛かることなどないからだ。

本当に実力のある人なら、規模に関わらず無名の企業に入って、その企業を誰もが知る企業に成長させる方法を考え、実行するだろう。希望・早期退職者のなかにも、中小企業の成長をサポートできる実力のある人材が含まれているに違いない。大企業のサラリーマン出身者が、中小企業へ請われて転職する流れができれば、後継者不足の問題の解消につながるかもしれない。

そして何より、大企業では居場所を失ったビジネスパーソンが、定年となる年齢をすぎても、実力を発揮する場を与えられれば、これまでとは違うシニアライフが実現する。逆に言えば、40代、50代のビジネスパーソンにとって、毎日どのように仕事に取り組んでいるかが、人生の後半戦を左右することになるわけだ。