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マーケティングのジレンマ・・・・No.57 「911」をフラッグシップにしながら、高級車のフルラインナップブランドになったポルシェ

ポルシェには乗りたいが、2座席スポーツカーには乗れない人のために

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ポルシェ911というクルマは、スポーツカーを愛する人たちにとって特別なブランドです。とはいえ2座席のスポーツカーを所有できる人は、どうしてもその条件が限られてしまいます。そこでポルシェが取った戦略は、911のブランドイメージを最大限に活用したSUVとファストバックサルーンの投入でした。

「911」によるスポーツカーブランドのイメージ戦略を生かし、高級車のフルラインナップブランド企業になったポルシェ

1990年代前半のポルシェは、最大の市場であるアメリカでの販売が不振で、深刻な販売不振にあえいでいました。ちなみに1999年から2000年における同社の生産台数は約4万5千台に留まり、当時のラインナップは、911・928・968の3車種に過ぎませんでした。

そんなポルシェが、2021会計年度に世界中で30万1,915台(前年比11%増)を販売しています。

ポルシェが復活したマーケティングをレビューすると、1996年にロードスターの「ボクスター」を投入、翌年はデザインと設計を全面的に刷新した996型「911」を投入してから販売が好転します。2003年になると同社初の5ドアSUVである「カイエン」を投入。カイエンの成功を受けて2009年には5ドア・ファストバックサルーンの「パナメーラ」を発売しました。「パナメーラ」はメルセデス・ベンツのSクラスやBMWの7シリーズに相当する車格と価格で、カイエンも競合企業と同様にラグジュアリー仕様で、この段階でポルシェはスポーツカー専業メーカーではなくなりました。そしてカイエンよりも小型のSUV「マカン」を2014年に発売します。

2021年に最も需要が大きかったモデルはマカンで、マカンの販売台数は8万8,362台、カイエンは8万3,071台と続いています。電動スポーツカーのタイカンは、前年度の2倍を上回る4万1296台。スポーツカーのアイコンである「911」は、過去を上回る3万8,464台が販売されました。パナメーラは3万220台、718 ボクスター&ケイマンは2万502台でした。

ポルシェの販売台数の伸張に貢献したのは「カイエン」と「マカン」で、全生産数のおよそ7割を占めています。スポーツカーの「911」は1割強、「718ボクスター/ケイマン」を入れても2割程度で、残りを「パナメーラ」や「タイカン」が占めています。

現在ポルシェのラインナップ数はすでに80近くに及び、高級車のフルラインナップブランド企業になっています。しかし「911」で築いたスポーツカーブランドのイメージを色濃く残す戦略が、この企業ブランドにおける強みの源泉になっています。

参考
●GENROQweb  ポルシェ、新車販売記録を更新! 2021年は前年比11%増となる30万1915台を販売
●webCG  ポルシェの飽くなき拡大路線 この先どうなっていく?
●画像はポルシェジャパンのサイトから転載