コラム

マーケティングのジレンマ・・・No.105 アメリカのメディア業界は「共存の時代」から「縮小市場のゼロサム競争」へ

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コラム リンクトイン

ディズニーのような伝統的メディアと、YouTube TVを擁するアルファベットのような巨大テック企業とでは大きな力量差があります。アルファベットの売上と時価総額は桁違いで、YouTube TVがディズニーに支払う多額の配信料も、同社にとっては事業全体の中の一要素に過ぎません。この極端なパワーバランスが、今回の対立構造の背景に存在してます。

アメリカのメディア業界は、従来のルールでは通用しない段階に入った

ディズニーと有料テレビサービス「YouTube TV」の番組配信料をめぐる交渉が決裂し、ディズニーはスポーツ専門局ESPNやディズニーチャンネルなどを含む傘下のABCの地上波放送や自社のネットワークを、YouTube TVで視聴できなくしました。

■ 旧来のビジネスモデルが崩れつつある

ディズニーとYouTube TVの配信料交渉が決裂した今回の対立は、アメリカのメディア業界が従来のルールでは通用しない段階に入ったことを鮮明に示しています。かつてメディア企業とケーブル事業者は、視聴料と広告収入という二つの収益源を背景に共存関係を築き、巨大な市場を拡大し続けてきました。しかし現在は、NetflixやYouTube、TikTok、ゲームなど、多様な選択肢が一気に広がったことで、この二重構造が同時に崩れつつあります。ケーブル契約はピーク時の半分にまで減少し、収益の前提そのものが揺らいでいます。

■ 交渉の構造は「成長の配分」から「痛みの押し付け」へ

これまでの放送権をめぐる交渉は、将来の成長分をどう分け合うかという前向きな調整で決着することが一般的でした。しかし市場が縮小し続ける現在は、どこに痛みを押しつけるかというゼロサムの争いへと姿を変えています。かつてのように“落としどころ”が自然に見つかる環境ではありません。

■ 地域の影響力が薄れ、巨大企業同士の中央集権的な戦いへ

業界全体の中央集権化が進み、かつて一定の影響力を持っていた地域局や地方政治家の存在感は急速に薄れています。かつては地元視聴者の不満や地方政治家の介入が交渉を動かす要因となっていましたが、今やその力はほとんど届かず、巨大企業同士が本社レベルでぶつかり合う構図が常態化しています。

■ ビッグテックと伝統メディアの間に広がる“圧倒的な力量差”

ディズニーのような伝統的メディアであっても、YouTube TVを擁するアルファベットのような巨大テック企業との力量差は歴然としています。アルファベットは売上も時価総額も桁違いであり、YouTube TVがディズニーに支払う多額の配信料でさえ、同社にとっては事業全体の中の一要素に過ぎません。この極端なパワーバランスは、今回の対立構造を象徴しています。

モルガン・スタンレーは、ディズニーが今回のYouTube TVとの対立で週に3,000万ドル(約46億2,000万円)を失っていると試算。年商が170億ドル(約2兆6180億円)規模のESPNにとっても、1社との契約だけで年間10億ドル(約1,540億円)以上の減収になります。

その一方、YouTube TVの親会社でグーグルの持株会社であるアルファベットの年間売上高は3,500億ドル(約5兆3900億円)で、時価総額は3兆ドル(約462兆円)です。同社にとってYouTube TVの売上は重要項目とは見なされず、決算で個別に開示されることもありません。 ディズニーも売上高900億ドル(約13兆8,600億円)、時価総額2,000億ドル(約30兆8,000億円)を誇ります。しかしこの現実を知れば、両者が同じ土俵に立っているとはもういえません。

■ 最大の負担を背負うのは「生活者」

そして最も影響を受けているのは生活者です。地上波や主要スポーツ、ニュースの視聴がサービス間で分断され、地域によってはスーパーボウルやオリンピックのような大型イベントを見られないケースが増えています。ストリーミングが救済策になるようにも見えますが、現状では地上波や主要スポーツチャンネルを完全に代替するには至っておらず、視聴体験はむしろ細切れになっています。

■ 業界の未来を象徴する一件

今回のディズニー対YouTube TVの衝突は、メディア業界がかつての拡大期の「共存モデル」から脱却し、縮小市場で巨大テックが主導する新たな時代へと移行したことを象徴しています。これからのメディアは、成長を前提にした構造には戻らず、生活者が「見たいものを見られない」リスクがむしろ増えていく可能性があります。