マーケティングのジレンマ・・・No.115 ビジネスファッションはフォーマル → 機能性 → 快適性という方向へシフト
ファッションには一時的な流行がありますが、そこに大きな潮流の変化が訪れると、従来の市場から新たにリポジショニングした市場が生まれます。この流れをキャッチアップした企業が、新たな市場を創造していきます。ビジネスファッションの世界ではまさにこの変化が起きており、フォーマル → 機能性 → 快適性という方向へシフトしています。
ビジネスファッション市場は「フォーマル市場」が縮小し、「機能性と快適性の市場」が拡大している
●ビジネススタイルのカジュアル化は、クールビズから在宅ワークまでの20年によって構造が変化した
2005年、日本政府が省エネルギー対策として導入した「クールビズ」は、日本の男性のビジネススタイルを大きく変える転機になりました。ネクタイを外すという小さな変化は、その後20年に渡り、ビジネスファッション全体のカジュアル化を促す起点になりました。
さらに2020年以降、新型コロナによって在宅ワークが急速に広がると、ビジネススタイルはもう一段カジュアル化します。Tシャツにジャケット、あるいはノーネクタイのシャツスタイルが一般化を始めます。
1.スーツ市場は「フォーマル」から「セットアップ」へ
最も大きな変化は、スーツ市場の縮小です。日本では、紳士服専門店の売上が長期的に減少しており、スーツ販売が主力だった企業は事業転換を迫られています。例えば、大手紳士服チェーンでは、オフィスカジュアル対応商品やセットアップの比率を増やしています。
今後の市場は、次の方向に変化すると予測できそうです。
・上下同素材のスーツではなく、ジャケットとパンツを別々に使える「セットアップ」
・ストレッチ素材など機能性を重視したビジネスウェア
・仕事と休日の両方で使える「ビジネス兼用服」
つまり、スーツは「仕事の制服」から「高機能な日常服」に再定義されつつあります。
2.ネクタイ市場は大幅に縮小し、代替市場は「襟元デザイン」
またネクタイ市場も、影響を受けた市場のひとつです。クールビズ以降、ネクタイ着用の機会は急速に減少し、ネクタイを身に着けない職種も増えています。
その代わりに拡大しているのは、次のような商品です。
・襟型の多様化(バンドカラー※1、カッタウェイカラー※2)
・シャツ単体で見栄えするデザイン
・ポロシャツ型ビジネスウェア
※1バンドカラーとは、襟の折り返し(カラー)がなく、首の周りに帯状の布だけが付いたシャツのこと。日本では「スタンドカラー」と呼ばれることもある。
※2カッタウェイカラーとは、襟の開きが大きく外側に広がったシャツの襟型のこと。イタリアでは「ワイドスプレッドカラー」と呼ばれる。
3 革靴市場は「ビジネススニーカー」市場へ
もう一つの市場変化が足元です。従来のビジネススタイルでは、革製のドレスシューズが基本でした。しかし現在は、スニーカーを履くビジネスパーソンが急増しています。
その結果、新しい市場が生まれました。
・ビジネススニーカー
・革靴風スニーカー
・軽量・高機能ドレスシューズ
スポーツブランドやシューズメーカーもこの市場を狙い、「通勤スニーカー」というカテゴリーが急速に拡大しています。
4 ビジネスバッグ市場は「リュック化」
もう一つの変化がバッグです。以前は、ビジネスケース(ブリーフケース)が主流でした。しかし現在は、ビジネスリュックを使う人が大幅に増えています。
背景には
・PCやタブレットの持ち歩き
・通勤時の身体負担軽減
・自転車通勤者の利便性重視
などがあります。
現在では、ビジネスリュックは一般化し、多くの企業でも容認されています。
5 今後拡大する「新しいビジネスファッション市場」
この流れは、今後さらに進む可能性があります。特に拡大が予想される市場は次の通りです。
・ビジネス×スポーツウェア(アスレジャー※3)
※3 アスレジャーとはスポーツウェア(Athletic)と日常着(Leisure)を組み合わせたファッションスタイル。スポーツ用の機能的な服を、スポーツ場面だけでなく、日常生活や仕事の場でも着るスタイル
・在宅ワーク対応の快適ウェア
・オンライン会議向けファッション
・高機能素材ビジネスウェア
・ビジネススニーカー
ビジネスファッションはフォーマル → 機能性 → 快適性という方向へシフトしていることがわかります。
●経営・マーケティング視点で見た重要なポイント
この変化は、単なる服装の変化ではありません。企業文化そのものが、「形式」から「合理性」へと移行していることを示しています。かつてのビジネススタイルは、社会的な規範や権威を象徴するものでした。しかし現在は、働きやすさや効率性が重視されるようになってきています。
そのため企業が商品開発を考える際には
・フォーマルの象徴としての服装
ではなく
・働く生活者の快適性
という視点が、さらに重要になってきます。
ビジネスファッション市場は縮小しているのではなく、「フォーマル市場」が縮小し、「機能性と快適性の市場」が拡大しているわけです。
参照
・環境省「COOL BIZ」政策
・日本百貨店協会統計資料
・矢野経済研究所「紳士服市場調査」
・日本ネクタイ組合連合会業界統計
・経済産業省衣料品産業関連資料