コラム

マーケティングのジレンマ・・・No.63 労働集約型飲食サービス業の処方箋

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「世界のベストレストラン50」で世界1位になり、「予約が最も取りにくいレストラン」の人気店になったにもかかわらず、コペンハーゲンのレストラン「ノーマ(noma)」は営業を終えることになりました。 ファインダイニングはもとより人件費の比率が大きい労働集約型飲食サービス産業の活路について考えます。

人件費の比率の大きい労働集約型飲食サービス産業の活路を考える

「世界のベストレストラン50」で世界1位を5回獲得し、ミシュランで3つ星の評価を受けているファインダイニングが、レストラン「ノーマ(noma)」です。世界中のグルメをデンマークのコペンハーゲンに集められるレストランになったにもかかわらず、2024年末で通常営業を終えてしまいます。2023年1月10日付けのニューヨーク・タイムズの記事で、シェフのレネ・レゼピさんは「過酷な労働時間と、厳しい職場文化を持つ高級店は限界点に達している」と語っています。

「予約が最も取りにくいレストラン」になったのに、なぜノーマは営業を終えることになったのでしょうか。

<ファインダイニングが抱える2つの問題>
(1)安価な労働力に支えられてきた環境が、許されなくなってきた
国内外を問わずその名が知られたファインダイニングには、そこで働いた実績が欲しい人たちがたくさん集まってきます。ファインダイニングは人件費の比率が大きい典型的な労働集約型産業で、法定労働時間を超えた労働環境になっていることが多くなっています。

しかしそこで働く人たちの待遇は、海外の場合には研修名目だと無給ということもあり、また雇用されても低賃金です。

デンマークではこうした労働条件を改善するため、待遇改善が指導されましたが、これが経営を圧迫します。コース料金で1人約6万7000円(3,500デンマーククローネ)するノーマでも、100名近い人件費の増加は大きな負担になります。

(2)パンデミックによる行動変化
2年以上に及ぶパンデミックによって人の移動が制限された影響は、レストランに限らずホテル業を始めとするサービス業に打撃を与え、従来の営業形態やビジネスモデルだけでは経営が難しくなっていました。

<日本市場に置き換えて、解決策を探る>
(1)特定の層に絞り込んだ顧客層に変換し、料金を上げる
多くの人の可処分所得が増えなければ、安いものを求めるニーズが拡大します。そのため日本の外食産業は、非常に安価な大手チェーンが多く、また競合環境が厳しいため、万人を相手にする限り値上げは難しい環境です。

「民間給与実態統計調査」の業種別平均給与を見ると、最も給与水準が低い業種が「宿泊業・飲食サービス業」で、平均給与は251万円です。この数字は、コロナ禍以前でも同じ水準です。日本の安価な飲食などのサービスの提供は、そこで働く人たちの安い給料で支えられているわけです。

この構図を変えるには、万人向けの顧客の設定から、絞り込んだ顧客層に変換し、料金を上げていくことです。この場合、国内だけでなく海外の顧客層も視野に入れる必要があります。

(2)料理やサービス力の向上と同様に、経営やマーケティングにも注力する
ファインダイニングでは料理の質を向上することに加え、新規顧客の開拓や常連顧客づくりを行うマーケティングが欠かせません。料理やサービスという感性を必要とする仕事に従事する人たちは、料理やサービスの向上と同様に、経営やマーケティングにも注力することが必要です。

多くのハイエンドブランドを買収して成功させているLVMHモエヘネシー・ルイヴィトンを率いるベルナール・アルノーさんは、「私たちにできるのは経営であり、クリエーティブではありません。逆に優れたクリエーティブをするブランドは、経営を苦手としている会社が多い。そうした会社を買収して、その日のうちに財務・経理を送り込んで金の流れを押さえます。しかし、クリエーティブにはタッチしません」と語ったと、大前研一さんは指摘しています。ここに成功の要諦があるように思います。

(3)テクノロジーを取り入れた省人化と省力化
固定費を押さえるために、AIを搭載したロボティクスの導入していくなど、サービス産業の分野にもテクノロジーを取り入れていくことが必要になってきます。