コラム

“低予算でも新規顧客を増やす”3ステップ

ネットとリアル、両方で攻める王道

掲載URL:http://president.jp/articles/-/24429

コラム プレジデントオンライン
社長の参謀ブログ

絶対にイケる! 自信を持って開業したものの「客がまったく来ない」というパターンで多くの人が店をたたんでいく。そこには大きな勘違いがある。「いい商品、いいサービスがあれば、客は来てくれる」というものだ。マーケティングコンサルタントがネットとリアルを組み合わせた新規顧客獲得法を紹介する。

せっかく起業しても会社を潰す人の特徴

脱サラや定年退職後に自営業者になり、蕎麦店やラーメン店、カフェや居酒屋などを開業する話をよく耳にする。だがその多くは経営がうまくいかず、閉店に追い込まれる。彼らは先達に弟子入りし、あるいは専門学校に通って蕎麦の打ち方や旨いそばつゆやスープの作り方などの調理方法を学び、そして開業すれば顧客は自然にやって来ると思い込んでいる。この考え方こそ、事業が立ち行かなくなる最大の原因だ。

こうした例は飲食業に限らない。「士(さむらい)」ビジネスと呼ばれる弁護士、公認会計士、税理士、司法書士、行政書士、開業医や歯科医師といった難易度の高い国家資格を取得した専門家、コンサルタント、デザイナー、コピーライター、文筆業など専門的な知識と能力を持つ第三次産業のサービス業に属する人たちの中にも、「座して待っていれば、顧客は何もしなくても向こうからやって来てくれる」と思い込んでいる人がけっこういる。

自意識やプライドが高い人が多い「士(さむらい)」ビジネスを営む人の中には、「口が裂けても、顧問先になってくださいとは頭を下げられない」と自ら認める残念なタイプがかなり存在する。

自身で顧客を見つけるセールス活動や販売行為を経験したことのないマーケッターやクリエイターは、効果の高い「販売促進策」や「集客策」をひねり出し、具体策を展開することは難しい。机上論だけでは顧客の心はつかめないからだ。身体を使わないネットを利用した顧客開拓の取り組みでも、この点は共通している。

いい商品があれば大丈夫、の発想を捨てろ

いくら専門性を磨いても、誰も自社の存在を知らなければ顧客は生まれず、商品も売れてはいかない。商品の製造は行うが、自社で直接販売することなく問屋や代理店任せにしているメーカーには、「いい製品さえつくれば、顧客は買ってくれる」と思い込んでいる企業がかなりある。この発想では新規顧客は生まれない。

専門性を磨き、商品力を高めることは重要だが、それ以上に欠かせないのが、顧客を見つける顧客開拓力(営業力)だ。座して顧客を待つのでなく、自ら顧客開拓を行うにはどうすればよいか。その具体的手順を追ってみよう。

営業を始める前にやっておくべきこと

新たな顧客を創造するには、ネットやSNSなど「バーチャル」を中心に「リアル」も組み合わせて、両面から攻めることだ。大きく3つのプロセスがある。

ステップ1、ホームページを整備しておく

まず、営業活動を始める前に、企業の情報基盤を整備しておくことだ。課題が生じて解決策を探すときや、自分に必要な商品やサービスを見つける際に、誰もがネットで検索する。

自社を見つけてもらうには、自社情報を磨き上げ、ホームページ(以下HP)にアップしておく。また掲載するコンテンツを絶えず更新し、検索結果で上位に表示されるように取り組む。

顧客開拓に長けた企業は自社商品の説明にとどまらず、既存顧客から寄せられた商品への評価コメントや使い勝手がよいといったお褒めの言葉、卓越したサービスを提供したスタッフへの賞賛などを新規顧客の開拓資源としてフル活用する。

顧客はモノの機能だけで商品やサービスを選ばない。迅速な配送の仕組み、使い勝手のよい通販システム、顧客目線に立った販売方法やサービス内容など、持てる資源を可能な限りHP上でアピールしたい。

なぜ、葬儀社は毎日ブログを発信するのか

ステップ2、ネットを活用したバーチャル顧客開拓

2-1、ネットとSNSによる顧客開拓

情報基盤を整備したら、情報発信による顧客開拓を開始する。注力したいのはFacebookやInstagram、ブログといったSNSの活用だ。自社の取り組みや商品・サービスに注目してもらうには、人気のあるSNSを研究し、顧客が目を通したくなるコンテンツを考え出す。

その日に亡くなった政治家や俳優、スポーツ選手の生前のエピソード、誰もが知る商品の製造終了日とその顛末、過去その日に起きた大事件や大事故などを毎日ブログで紹介する企業の経営者がいる。記事をアップする時間は毎朝7時前後と決まっており、Facebookからもブログの記事が見られるようにリンクを張っている。このブログはよく調べられた内容で質が高く、多くの人たちに購読されている。

なぜこの経営者は亡くなった人やモノの歴史を、毎日紹介するのか。それはこの会社が葬儀社だからだ。人の「死」を生業にする企業は、顧客開拓をしにくいと考えやすい。だが近親者が亡くなった際に、残された人が最初に探すのは葬儀社だ。業界に知人でもいない限り、葬儀社の知り合いはいないだろう。だがFacebookやブログを見ている人なら、この企業に葬儀を依頼する人が当然現れる。

2-2、コンテンツによる顧客開拓

自社のHP以外に自社関連のコンテンツがどれだけネット上にアップされているかによって、集客力には大きな差がつく。学者や専門家、ジャーナリストの目にとまり、書籍や雑誌、オンラインサイトや人気ブログなどで自社や自社商品・サービスが紹介されれば、確実に情報は拡散する。またネット検索すれば、掲示されるコンテンツの数が増え、閲覧される機会は増大していく。

何もせずに、報道されることなどない。この人に紹介してほしい、このオンラインサイトに報道してもらいたい――そう思うなら、書き手や著者に自社の情報を届け、あるいは商品サンプルを送り、きっかけをつくればいい。

専門職の個人事業主や法人なら、自分たちのノウハウをまとめて書籍を刊行し、社会に役に立つ情報を発信すれば、知名度は向上する。知名度向上だけを狙い、内容がない企業本を出しても効果はない。また業界人向けの専門誌や専門書籍は顧客開拓につながらない。顧客になって欲しい人たちが目を通すメディアとコンテンツであることが重要だ。

書籍が売れない時代なので、過去に実績のない人が新たに出版するハードルは高い。そんなときは、雑誌やオンラインサイトに自社が持つ情報を提供し、連載記事の執筆を働き掛ける方法がある。この場合、紹介者がいれば掲載の可能性は高まる。

2-3、広告による顧客開拓

経費が使えるならマスメディアやネットに広告を出稿し、顧客を開拓する。中でも比較的広告料が手軽なインターネット広告は、マスメディアと違って多様な広告の表示方法がある。表示方法別に見ると、次のようなネット広告の種類がある。

・バナー広告(ディスプレイ広告)

ホームページの中に広告スペースを設け、そこに画像や動画を入れるインターネットの一般的な広告。

・テキスト広告

リスティング広告とかメール広告とも呼ばれ、文字(テキスト)だけでつくられた広告。

・記事広告(タイアップ広告)

雑誌やオンラインサイトなどに記事形式で挿入される広告で、メディアの編集部で制作することが一般的だ。

・ネイティブ広告

広告スペースではなく、メディアの記事(コンテンツ)の中に表示する広告。Facebookのフィード広告(利用者のコンテンツが表示されるニュースフィードに広告が掲載される)がその代表例だ。

・動画広告

動画による広告で、YouTubeで動画を再生する際に流れる広告が代表的だ。動画が流れる前に再生される広告を「プリロール動画広告」と呼ぶ。現在は動画の視聴中・視聴後に流される広告も増えている。動画広告が表示された後、数秒後にユーザーが視聴するかどうかを選べる「スキッパブル広告」と、強制的に見なくてはいけない「ノンスキッパブル広告」とがある。

・メール広告

希望した人にメールマガジンを配信し、そこで広告を行う。近年は文字(テキスト)だけでなく HTMLによる画像が豊富なメルマガが主流だ。

・コンテンツ連動型広告

閲覧するホームページの内容や見る人の興味や関心に合わせて配信される広告だ。バナーとして配信されることが多い。

・リターゲティング(リマーケティング)広告

ホームページに訪れた生活者に対して、何度も継続して配信する広告だ。Google AdWordsではリマーケティング 広告、Yahoo!プロモーション広告ではリターゲティング広告と呼ぶ。

・リスティング(検索連動型)広告

GoogleやYahoo!などの検索エンジンが提供する検索連動型広告。生活者が検索した際、 検索結果のページにある広告枠に表示され、タイトルと広告文で構成されるテキスト広告が多い。

・位置情報連動型広告

スマートフォンなどの位置情報サービス(GPS)を読み取り、 利用者が今いる場所周辺の店舗情報などを配信する広告だ。

インターネットを使った広告は、広告料の課金方法にも選択肢が多い。インターネット広告の大半は、クリック課金型と インプレッション課金型に分類される。近年注目を集める動画広告は「視聴」ごとに課金が発生する仕組みとなっている。主な課金システムは、以下の通りだ。

・インプレッション課金

広告が表示されたら課金する形式。

・クリック課金

リスティング広告やディスプレイ広告に適用されている課金方式で、 広告を1クリックした段階で課金が発生する仕組みだ。

・期間保証課金

特定ページヘの広告を、指定された期間だけ掲載を保証する方法で、クリック数やインプレッション数は料金には反映されない。バナー広告に適用されることが多い。

・成果報酬型課金

ホームページで顧客が広告主の商品やサービスを購入し、あるいは成約すると課金する形式だ。

・配信数型課金

メルマガの広告に適用され、配信数によって料金が変わる。LINEでの配信もこの料金体系になっている。

・広告視聴単価型課金(CPV)

動画広告の課金形式で、生活者が動画を観た段階で課金される。何秒以上再生すると課金、フル再生で課金、など課金が発生する仕組みは契約によって異なる。

2-4、プロモーションによる顧客開拓

リアルとバーチャルそれぞれにプロモーションを行って、顧客を開拓し、既存顧客の継続利用も促す方法だ。自社のノウハウを読み物や動画にして配信するメールマガジン、商品やサービスを冊子や印刷物にして潜在顧客に送るDM、HPを観た人が応募すると賞品が当たるキャンペーンなどがある。

DMは印刷物の制作費に加え、郵送料が必要なので、非常に広告コストが掛かる。一方、ネットを使うプロモーションは印刷代や郵送費は掛からず、内容をいつでも更新・変更できるのでメリットが大きい。

2-5、他社サイトへの出店による顧客開拓

アマゾンや楽天など他社のサイトで商品を販売する顧客開拓方法だ。他社でも販売している商品は、競合企業間で熾烈な価格競争に巻き込まれ、利益が出なくなり撤退するケースもある。他社にないオリジナル商品やサービスなら、販売価格を維持して販路を広げれば、顧客が見つかり収益性も高くなる。

有料セミナーには、優良な顧客が集まりやすい

ステップ3、リアルの顧客開拓

3-1、講演による顧客開拓

経済団体や他業界の企業から講演を依頼されるといった、講演を活用したB2Bの顧客開拓方法だ。自社が持つ有益な情報を紹介すれば、参加者の注目度は高まり、仕事の相談や依頼につながるほか、自社の知名度向上にも貢献する。自慢話や上から目線の語りではなく、聞き手の役に立つ成功事例と、そこに至るまでの苦労話や失敗談で講演を構成するといいだろう。

同業者が集まる席での講演は、あまりおすすめしない。安易に模倣する企業も存在するからだ。また入場無料の講演もおすすめしない。入場無料の講演は、聴衆の質が下がる。有料で価値ある講演には、質の高い聴衆が集まる。

3-2、セミナー・研修による顧客開拓

企業向け研修機関や教育機関が手掛けるセミナーや研修も、B2Bの顧客開拓につながる。宣伝行為は嫌われるから、自社が持つ有益なノウハウや方法論を紹介し、受講者に参加してよかったと思えるように取り組む。

ここで気に入ってもらえば、企業から研修の依頼が来る。有益な情報を出し惜しみせず提供する企業と人に、顧客は吸い寄せられる。

3-3、展示会出展による顧客開拓

B2B企業や生産財メーカーなどが新規顧客を開拓するため、自社に関連する展示会に出展し、自分たちの技術力やシステムを紹介する方法だ。展示会にただ出展するのでなく、自社の技術を誰にもわかりやすく解説する「技術を見える化」手法を開発して注目度を高めたい。また来場者の名刺を入手するために、記念品や価値ある情報誌を配布するといった工夫も必要だ。

3-4、既存顧客からの新規顧客の紹介

既存顧客の評価や信頼を獲得し、新たな顧客を紹介してもらう方法だ。単に取引があるだけでは新規顧客を紹介してはもらえない。自社にロイヤリティ(忠誠心)を持っている取引先なら、新規顧客を紹介してもらえる。紹介する価値やメリットを生み出すことが、必須条件になる。

3-5、自主的な顧客開拓

自社の顧客になってもらえそうな企業や個人を調べ、自社をアピールする資料を送付し、その上で訪問するのが足を使った新規顧客開拓だ。

一部の事務機器商社やメーカー、証券会社、銀行などは相手のことを一切調べずに「飛び込み営業」をさせる企業がある。この方法では担当者の苦労が多いわりに成約率が低く、訪問先への企業イメージも悪くなる。

訪問するなら、徹底的に相手企業を調べて分析し、先方にメリットのある提案を持っていけば、成約に繋げることができる。

行動を起こさない限り、何も変わらない

「いかに顧客にメリットがある提案ができるか」「既存顧客から多くの評価や信頼を獲得し、自社の評判がクチコミを通じて広がり、新規顧客からの問い合わせや新規利用が生まれるか」「何度失敗しても、新規顧客開拓を諦めずに継続するか」。こうした取り組みの度合いによって、事業の継続性は決まる。

楽して、新規顧客は生まれない。まして座しているだけでは、顧客は絶対に生まれない。行動を起こしてはじめて、新規顧客はあなたのまえに現れる。