価値のジレンマ・・・No.103 アメリカに「暴力的な衰退」が迫っていると、エマニュエル・トッド氏は警告する
「知の巨人」と呼ばれ、ソ連崩壊を予言したフランスの歴史人口学者のエマニュエル・トッド氏は、「最後の転落」や「西洋の敗北」といった書籍を著しています。そのトッド氏がアメリカは「暴力的衰退」の恐れがあると、警告しました。アメリカが衰退に至る道筋は、製造業の衰退、宗教と教育の崩壊、社会の分断とポピュリズム(大衆迎合主義)の拡大などによる、民主主義の退潮だと指摘しています。
日本は「冷静に多極化の時代を見据える知恵」が求められている
■ アメリカは「暴力的な衰退」に向かう可能性
歴史人口学者エマニュエル・トッド氏は、現在のアメリカを「暴力的な衰退」に向かう国と見ています。社会の分断や価値観の崩壊が進み、真実を否定する風潮が広がっているからです。トランプ再選はその象徴だといいます。
■ 製造業の衰退と「ドルの呪い」
アメリカの製造業が衰退した背景には、
・技術者の減少(今やロシアより少ない)
・優秀な人材が「モノづくり」ではなく「金融」や「法律」の業界に流れる構造
・ドルの基軸通貨としての強さが、かえって産業の競争力を奪っていること
があると指摘します。
ドルによって輸入が容易になり、国内の生産活動が軽視された結果、労働者層は「生産しない消費者」に変わってしまったと指摘。その喪失感が、自殺や薬物依存など社会問題を深刻化させていると分析しています。
■ 宗教と教育の崩壊が社会を空洞化
トッド氏は、西洋社会を支えてきた「プロテスタント的価値観(勤勉・誠実・真実の尊重)」が崩壊したことが、西洋の衰退の根本原因だと述べています。この宗教的価値観が識字率と教育を高め、社会の秩序を作ってきましたが、その基盤が失われた結果、人々の知性も低下したと指摘しています。
現在のトランプ支持者の「キリスト教右派」には、プロテスタントの精神が見られず、真実の否定や金銭礼賛など「宗教の逆行」になっていると指摘します。
■ 分断とポピュリズムの背景
教育が高度化し、エリート層が優越感を持つようになった結果、社会の平等意識が薄れ、反動としてポピュリズム(大衆迎合主義)が広がりました。これが現在の政治的混乱の根底にあるとしています。
■ 日本への示唆
日本については、宗教の混合(神道・仏教・儒教)が社会の安定に寄与していると評価。ただし「完璧主義」が少子化を招いており、多少の「不完全さ」を許容する社会が必要だとも述べています。
■ 世界秩序の変化と日本の立場
ロシアや中国、インドが主導する「多極化の流れ」が強まり、欧米の一極支配は終わりつつあると分析。トッド氏は、明治期の日本が「西洋に対抗した最初の新興国」であったように、今こそ日本は独自の立場で世界に関与すべきだと提言しています。
■ 結論:アメリカの「平和的衰退」は困難
トッド氏は、アメリカが穏やかに衰退する可能性は低く、「内戦を含む乱暴な崩壊」が起こり得ると警告しています。その影響は同盟国にも及ぶため、日本も警戒すべきだとしています。
要約すると、トッド氏は「ドルの覇権」「宗教の喪失」「教育の退潮」がアメリカ社会の根幹を蝕み、暴力的な衰退を招くと警告しており、日本には「冷静に多極化の時代を見据える知恵」が求められている、という主張です。
(出典:エマニュエル・トッド『西洋の敗北』ほか発言より)