価値のジレンマ・・・No.108 台湾が世界最低の出生率となった構造的課題
日本の出生率の低下が問題になっていますが、出生率が世界最低になった台湾が抱える構造的課題を見ると、日本と共通する問題が見えてきます。
少子化対策は、生活者が「子どもを持つ人生も、持たない人生も、どちらも尊重される社会」を前提に、「育てる選択をしても安心できる環境」をいかに設計するかが問われる
●世界最低の出生率となった台湾
台湾が、世界で最も低い出生率を記録したことが明らかになりました。台湾内政部が2026年1月9日に公表した人口統計によると、2025年の出生率は人口1000人あたり4.62人でした。合計特殊出生率は正式発表前ながら、過去データから推計すると約0.72と見込まれています。この水準は、2023年に世界最低を記録した韓国と並ぶ、極めて低い数値です。
●出生数は10年連続減少、急速に進む高齢化
台湾の出生数は10年連続で減少し、2025年の新生児数は10万7,812人と、前年比で約20%減少しました。これは統計開始以来、最少の出生数です。一方、人口約2,300万人の台湾では、65歳以上の高齢者は全人口の20%に達しました。これは国連が定義する「超高齢社会」に該当し、日本や韓国と同水準にあります。人口構造は、すでに「減る若者」と「増える高齢者」という不可逆的な局面に入っています。
●なぜ台湾の出生率はここまで低下したのか
台湾の少子化は、複数の構造的要因が重なっています。
第一に、住宅価格の高騰です。特に台北市を中心とする都市部では、若年層が住宅を取得するハードルが非常に高く、結婚や出産を先送りする大きな要因となっています。
第二に、雇用の不安定さです。非正規雇用や長時間労働が若年層に集中し、将来の生活設計を描きにくい状況が続いています。
第三に、女性の高学歴化と就業機会の拡大です。これは社会として望ましい変化である一方、育児とキャリアの両立を支える制度や企業文化が追いついていない現実があります。
さらに台湾では「子どもを持つことが生活の質を下げるのではないか」という生活者の不安が広がっている点も見逃せません。経済的負担だけでなく、時間的・心理的負担が大きいと認識されているようです。
●韓国との比較が示す示唆
参考として、韓国の動きを見てみます。韓国は2024年末に超高齢社会へ突入しましたが、2025年には出生率が0.75へとわずかに上昇しました。その主な要因は、30代女性の出産が増加したことだとされています。これは、極端に落ち込んだ出生率であっても、特定の年齢層の行動変化によって下げ止まりが起こり得ることを示しています。ただし、反転上昇が構造的な回復につながるかは、不透明です。
●台湾の少子化は「特殊」ではない
重要なのは、台湾の状況が例外ではないという点です。東アジアの先進国・地域では、低出生率が「異常値」ではなく、「新しい常態」になりつつあります。
少子化は、出生奨励金や一時的な支援策だけで解決する問題ではありません。生活者が「子どもを持つ人生も、持たない人生も、どちらも尊重される社会」を前提に、その上で「育てる選択をしても安心できる環境」をどう設計するかが問われています。
台湾が直面している現実は、日本にとっても他人事ではありません。
出典・参考資料
台湾内政部 人口統計(2026年1月9日発表)
World Has New Lowest Birth Rate
World Bank World Development Indicators
United Nations, World Population Prospects
Statistics Korea(韓国統計庁)