価値のジレンマ・・・No.112「持たない選択」が生む新たな豊か
生活を固定化せず、自らの人生を柔軟に設計しようと考え、「必要なときに、必要なものを、無理なく使えること」が新たな豊かさの概念として出現しています。
支出を「固定費」から「変動費」に転換する合理的な意思決定
これまで日本では、一人暮らしなどの新生活では“まず買うこと”から始まりました。冷蔵庫、洗濯機、電子レンジ、ベッドなど生活に必要なものを一式揃えることが、新生活のスタートラインでした。
しかし、その風景は次第に変わりつつあります。家具・家電付きの住居を選ぶ、あるいは家具や家電を月額で借りるサブスクリプションサービスを利用する。こうした選択肢が、若い世代を中心に広がっています。
これは単なる節約志向ではありません。購入すれば初期費用がかかり、引っ越しのたびに運搬や処分の負担が発生します。一方で、サブスクリプションであれば月額で利用でき、不要になれば返却できます。支出を「固定費」から「変動費」に転換する合理的な意思決定が働いているといえます。
家具・家電のサブスクリプションを展開するCLASの2024年調査によれば、長期リース型サブスクの利用者は20代で13.8%、30代で14.3%に達し、利用内容では「家具」「家電」が4割を超えています。この数字は、「所有しない暮らし」がすでに一部のライフスタイルとして定着し始めていることを示しています。
注目すべきは、この変化が「持てない」からではなく、「持たない」という選択として現れている点です。限られた可処分所得をどこに振り向けるか。モノの所有を前提にするのではなく、体験や自己投資、将来への備えに配分する。これは生活者の価値観の変化そのものといえます。
この流れは若年層だけにとどまりません。転勤や転職が一般化し、ライフプランの不確実性が高まる中で、働き盛り世代にとっても「所有の固定化」はリスクになり得ます。住まいも、家具も、働き方も、状況に応じて柔軟に組み替える。そうした志向は、今後さらに広がっていく可能性があります。
かつて「豊かさ」は所有の量で測られてきました。しかし現在は、「必要なときに、必要なものを、無理なく使えること」へと、その定義が静かに変わり始めています。
この変化は、新生活という一つのシーンにとどまらず、これからの消費と暮らしのあり方を示唆しています。所有から利用へ。それは単なる消費スタイルの変化ではなく、生活を固定化せず、自らの人生を柔軟に設計しようとする新たな潮流の萌芽といえるのではないでしょうか。
出典:
・CLAS「家具・家電サブスク利用実態調査(2024年)」
・各種公開情報および一般的な市場動向に基づく整理