コラム

価値のジレンマ・・・No.115 生成AI時代に問われる「考える力」~思考を外注しない働き方~

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コラム リンクトイン

生成AI時代のナレッジワーカーに必要なのは、AIに任せる力ではなく、AIを使って自身の思考を深める力です。その具体的方法とは、AIに「問い」「反論」「別視点」「弱点」を抽出させることです。

生成AIは、「作業を代行させる道具」ではなく、「自分の思考を鍛え、広げ、検証する相手」として使う

ナレッジワーカーにとって生成AIは、「作業を代行させる道具」ではなく、「自分の思考を鍛え、広げ、検証する相手」として使うべきだという指摘があります。

Microsoftの研究部門Microsoft Research Cambridgeのアドバイト・サルカル氏らの研究では、生成AIを使うと、仕事は速くなる一方で、AIへの信頼が高く、自分の判断への信頼が低い人ほど、批判的思考に費やす努力が下がる傾向が示されています。この調査対象は319人のナレッジワーカーで、936件のAI利用事例が分析されています。

一方で、Noy and Zhangの実験では、ChatGPTは文章作成業務の生産性を高めることが示されています。つまり、AIは使わない方がよいのではなく、「速くするためだけに使う」と思考が弱まり、「考えるために使う」と能力を高める、ということです。

●ナレッジワーカーが取るべきAI活用の基本原則

1. 最初の問いは人間が立てる

AIにいきなり「資料を要約して」「企画案を作って」と依頼すると、思考の出発点をAIに渡すことになります。まず自分で、目的、相手、判断基準、論点を短く書くべきです。

たとえば、次のように使います。

「このテーマについて、私はAが重要だと考えています。見落としている論点、反論、別の解釈を提示してください」

これにより、AIは「答えを出す機械」ではなく、「思考を揺さぶる相手」になります。

2. 要約だけで済ませず、原文を読む

AI要約は便利ですが、要約だけを読むと、文脈、根拠、筆者のニュアンスが抜け落ちます。サルカル氏が重視するTools for Thoughtの考え方でも、AIは読むことを省略させるのではなく、読む視点を増やす役割を担います。Microsoft Researchも、AIを単なるアシスタントではなく「Tool for Thought」として設計する必要性を述べています。

実務では、AIに全文要約を求める前に、「この文書を、経営者視点、生活者視点、リスク視点で読むと、どこに注目すべきですか」と聞く方が有効です。

3. AIには「賛成」より「反論」を求める

AIは利用者に合わせて、もっともらしい答えを出しがちです。そのため、発想が平均化しやすくなります。Doshi and Hauserの研究では、生成AIは個人の創造性を高める一方で、成果物同士の類似性を高め、集団全体の多様性を下げる可能性が示されています。

したがって、AIには次のように依頼するのが有効です。

「この案に反対する立場から、弱点を3つ指摘してください」

「この結論が間違っているとしたら、どの前提が崩れていますか」

「他社も同じ結論に到達しそうです。独自性を出すには、どこを掘り下げるべきですか」

4. 構成と判断は人間が担う

AIに文章を作らせること自体は問題ではありません。問題は、何を採用し、何を捨て、どの順序で語るかまでAI任せにすることです。

ナレッジワーカーの価値は、情報を並べることではなく、判断することにあります。したがって、アウトライン、主張、優先順位、結論は人間が決め、AIには表現、比較、補足、反論を担わせるべきです。

5. 「速さ」だけでなく「説明できるか」を評価基準にする

AIを使うと、短時間で成果物ができます。しかし、その内容について「なぜそう言えるのか」「根拠は何か」「別案を検討したか」と問われたときに説明できなければ、仕事の質は高くありません。

AI活用後には、必ず次の3点を確認すべきです。

・自分の言葉で説明できるか

・根拠と出典を確認したか

・反論や代替案を検討したか

MicrosoftとLinkedInのWork Trend Indexでは、世界のナレッジワーカーの75%が生成AIを仕事で使い、AI利用者の78%が自前のAIツールを職場に持ち込んでいると報告されています。AI利用はすでに個人任せの段階に入っていますが、だからこそ、組織として使い方の基準を持つ必要があります。

●実務で使えるAI活用の型

・情報収集

「このテーマの主要論点を整理してください。ただし、一般論ではなく、賛否、リスク、未解決課題に分けてください」

・企画立案

「私の案を前提に、競合も思いつきそうな平凡な部分と、独自性になり得る部分を分けてください」

・報告書作成

「以下の構成案について、論理の飛躍、根拠不足、読み手が疑問に思う点を指摘してください」

・研修・講演準備

「受講者が理解しにくい箇所、反発しそうな箇所、具体例が必要な箇所を指摘してください」

生成AI時代のナレッジワーカーに必要なのは、AIに任せる力ではなく、AIを使って自分の思考を深める力です。

AIに下書きを作らせるだけなら、仕事は速くなります。しかし、それだけでは、自分の判断力、構想力、説明力は鍛えられません。これから重要になるのは、AIに「答え」を求めることではなく、AIに「問い」「反論」「別視点」「弱点」を出させることです。

AIに考えてもらう人ではなく、AIによって、より深く考える人になること。これが、ナレッジワーカーが自身の能力を最大化するAI活用の基本です。