コラム

価値のジレンマ・・・No.91 性的偽画像から被害者を守るために、アメリカで進む法整備の新たな動き

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コラム リンクトイン

アメリカではSNSなどのプラットフォームに対し、被害者からの正当な削除要請に48時間以内で対応する義務を課す「テイク・イット・ダウン法」に続いて、SNSだけでなく、職場のメールや個人間のやり取りなどで拡散され、被害者の仕事・人間関係・名誉に深刻な影響を及ぼした場合、実害への金銭的補償を受けられるようにするのが、今回議会に再提出された「ディファイアンス法(DEFIANCE Act)」です。AI時代の「新たな人権保護」方法として、見過ごせない動きです。

ネット上に出回るディープフェイク動画の98%が性的なもので、その99%が女性を対象としている

ディープフェイク技術の高度化により、他人の顔写真を使って本人の同意なくリアルな性的画像を生成・拡散する行為が急増しています。アメリカでは、この問題に対応するため、2つの重要な法案が動いています。

まず2025年5月にトランプ大統領が署名した「テイク・イット・ダウン法」は、SNSなどのプラットフォームに対し、被害者からの正当な削除要請に48時間以内で対応する義務を課すものです。違反すれば、運営会社や加害者には罰金や禁錮刑、連邦取引委員会(FTC)による制裁も科される可能性があります。

しかし、こうした画像はSNSだけでなく、職場のメールや個人間のやり取りなど別の手段でも拡散され、被害者の仕事・人間関係・名誉に深刻な影響を及ぼしています。そこで登場したのが、今回議会に再提出された「ディファイアンス法(DEFIANCE Act)」です。この法案は、画像の削除だけでなく、加害者に対して被害者が損害賠償を求める民事訴訟の権利を与えるものです。たとえば、職を失った、メンタルケアの費用がかかった、身辺警備が必要になったなど、こうした実害への金銭的補償を受けられるようになります。

性的暴力防止協会の代表、オムニ・マルトーンさん自身もディープフェイクの標的にされた経験を持ち、「この法律は被害者にとって、検察に頼らず自ら正義を求められる貴重な手段」だと語っています。

調査によれば、ネット上に出回るディープフェイク動画の98%が性的なもので、その99%が女性を対象としています。これは、単なる性的嫌がらせではなく、女性を「物」として扱い、尊厳や信頼を破壊する手段として利用されていると、多くの専門家が指摘しています。女性政治家やキャリア女性がこのような画像の標的になった場合、「感情がない」「人間味がない」といった誤った印象が世論に与えられ、選挙や昇進にも影響する可能性があります。

ディファイアンス法は、被害者が法的手段で名誉を回復できる道を拓くと同時に、加害抑止の強力なメッセージにもなります。AI時代の「新たな人権保護」方法として、企業・個人にとって見過ごせない動きです。

出典:AIポルノ被害者の「損害賠償訴訟」を支援する法案、米議会で提出 Forbes